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(2) あらゆる仕事に変換されるエネルギー共通貨
生体の中では、物質の燃焼と異なり、酸素が直接に炭素を炭酸ガスに変えるのではない。清水らは、筋肉の成分であるアクチン繊維を雲母片に固定し羽を作り、ビーカー中にミオシン繊維とATPおよび酵素を溶かした溶液を入れ、これにその羽をつけると、羽が回転することを見いだした。これは、ATPがADP(アデノシン二リン酸)とリン酸イオンに分解することによって、発生する化学エネルギーが、羽の回転という機械的エネルギーに変換されることを示した良い例である。この他、合成の化学的エネルギー、物質輸送の浸透圧的仕事、発熱、発電、発光から発音にいたるまで、全ての生体活動とATPの関連が知られている。このようにあらゆるエネルギーに変換可能な共通的なエネルギー物質を実現することによって、エネルギーの生産、貯蔵と輸送を効率的に行うことができるようになる。このような、視点から興味が持たれるのは、例えば、水素ガスを共通的な二次エネルギー物質とするエネルギー経済を構築する技術であろう。
(3) 濃度差化学エネルギーの利用
水素と酸素から電気を生み出す燃料電池は、生体の水素イオンエネルギーを得る仕組みとよく似ている。燃料電池では、電極間の反応によって液体中に生じる水素イオンの流れが電子の流れを生み出し、金属などの導体によって電気を取り出す。一方、生体では、膜が電子のエネルギーを用いて水素イオンを生み出すが、膜が水素イオンの流れを遮り、これを酵素の働きによる水素イオンポンプが必要に応じて水素イオンを汲み出し、化学エネルギーとして利用する。生体のエネルギー変換効率が高いのは、膜を隔てて物質を濃縮したり、逆に濃いところから薄いところに流出するエネルギーを用いるなど、膜と酵素の働きによることがその理由である。この点も、人工的な熱機関が、温度差のみからそのエネルギーを引き出すのと対照的である。
(4) 分子機械
生体は、DNAの情報を基にアミノ酸を材料として生命活動を維持するためにエネルギーを消費していく。生命は、自己増殖機能を持ったエネルギーと情報の処理装置と考えることができる。水素イオンの生産は酸化還元反応であるため、必ず対となる電子輸送反応を伴う。すなわち、電子輸送反応をコントロールすれば化学反応を自由に制御できることになる。このような、電子−化学反応相互制御メカニズムは、図5−3に示した光合成反応でよく知られている。水素イオンを生成するプロセスが光化学系?、これに対して、太陽光によって生じる電子を消費して炭酸固定するプロセスに関連した反応系が光化学系?と呼ばれる。電子の流れを制御して、物質とエネルギーを制御する方式は、コンピューター制御による化学プラントをイメージさせる。タンパク質による情報処理のメカニズムは、

 

 

 

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